カンボジア/シェムリアップの孤児院で暮らす子供たちの基本的人権に関するアピール
シェムリアップ県立孤児院(Siem Reap Provincial Orphanage、以下「SRPO」と略す)で暮らす50人の子供たちが2004年11月以来、通常では考えられないきわめて困難な状況に置かれており、その窮状からの救出を求めています。
2005年7月18日付けの『カンボジアデイリー』紙には、SRPO(世話係の女性、トーラエムさんと子供たち)とSRPOの併合を企てるオーストラリアの某NGOの間に生じている軋轢に関する記事が掲載されました。
双方の申し立てをひとまず度外視しても、争う余地のない端的な事実がいくつかあります。
1.
2004年末以降、このNGOはこれまで政府がSRPOに対して行っていた水、米、薪の支給を停止しました。
2.
2005年の3月から4月にかけて、このNGOはSRPOへの送電を停止しました。
3.
2004年11月以降、このNGOは一般旅行者による同孤児院の訪問、支援を妨害し続けています。
つまりこのNGOはSRPOに対して兵糧攻めを行っているわけであり、その結果として子供たちは物的、精神的に大きな困難を強いられています。このNGOのこれらの行為は明らかに子供たちの基本的人権に対する重大な侵害であります。
4.
そして最後に、このNGOは社会福祉省の決定によるトーラエムさんの退職を待ち望んでいます。子供たちが彼女を実の母親のように愛し、「私たちのお母さんを奪わないで!」と叫んでいるにもかかわらずです。
孤児を支援するためにカンボジアに入ってきた外国NGOがこのような行為を行うということは、常識では理解しがたいことです。このNGOはプノンペンの孤児院では素晴らしい成果を上げているだけに、またこのNGOの理事長はカンボジアとオーストラリアで名声を博しているだけに、シェムリアップにおける尋常ならざる現実を直視することは必ずしも容易ではありません。 もしかしたら我々には分からない正当な理由があってこのNGOはやむを得ずこのような行為に及んでいるのではないか、と考える人がいるかもしれません。しかし、上記のような基本的人権の侵害を正当化しうる理由などありうるでしょうか。
以下のアピールは可能な限り客観的な立場から現状に至るまでの経緯を説明し(ただし下線を付した文章は筆者の個人的見解を述べたものです)、広く諸氏、諸団体に理解を求めるとともに、問題解決に向けての協力を求めるものであります。
(1)
背景
SRPOの施設は複数のNGOや個人の寄付によって建設され、また敷地も政府から与えられた最悪の沼地を子供たちが苦労して埋め立てて得られたものですが、形式上は、SRPOは政府社会福祉省が管轄する公的孤児院であります(少なくとも昨年末まではそうでした)。2004年末までは政府が米、水、薪、電気代のほか、食費として1日あたり4.5$(孤児一人につき0.075$)、さらにはスタッフのトーラエムさんに月給として13$を支給していました。トーラエムさん(現在55歳)は1988年から1997年まで炊事婦として働き、1997年に前院長が退任してからは実質上一人で60人ほどの子供たちの面倒を見続けてきました(子供たちの証言によれば、形の上での現院長ムン・ソクン氏は子供たちのために何一つしてこなかったということです)。政府から支給される雀の涙ほどの金では必要な食費の10分の1にもなりませんが、この孤児院を訪れてくる多くの旅行者の寄付に支えられ、トーラエムさんは限られた条件の中で最大限のケアーを子供たちに提供してきました。2004年11月にサンライズというNGOがシェムリアップにやってくるまでは、特に大きな問題はなかったのです。
オーストラリアのNGO、通称「サンライズ」(正式にはThe Australia Cambodia
Foundation Inc. Sunrise Angkor Children’s Village、www.sunrisechildrensvillage.org、会長Ms. Geraldine Cox、事務局長Mr. Gerald Trevor)はプノンペンでの孤児院運営で成功を収めた後、2004年、シェムリアップ進出に動き出しました。会長のMs. Coxが有するフンセン首相との太いパイプを基盤として担当の社会福祉省の合意を取り付け、シェムリアップにおいてSRPOを含む2つの孤児院を統合管理する計画でした。表通りに面する敷地にある(主として年長者の孤児を収容する)孤児院をいわば居ぬきで引き取った後、その奥にあるSRPOの施設は解体した上、近代的な総二階建ての施設を建設する青写真が描かれていました。それまで実質上一人でSRPOを切り盛りしていたトーラエムさんをどう処遇するか、当然サンライズ内で検討が行われたはずです。その経緯は外部から知る由もありません。明らかなことは昨年末の時点ですでに軋轢が生じていたということです。サンライズ(会長Ms. Cox、事務局長Mr. Trevor)の言い分によると、サンライズはトーラエムさんに統合サンライズ孤児院の中でなんらかのポストを提供したが、トーラエムさんは自分で資金管理を行う権限に固執したため、トーラエムさんを排除する方針を決めたということです。一方、トーラエムさんおよび子供たちの証言によると、2004年の7月にMr. Trevorが最初に現れた時点ではサンライズはトーラエムさんが引き続きSRPOで働くことを認めたので、トーラエムさんも子供たちもサンライズが自分たちを支援してくれると考えて、大いに喜んだということです。ところが8月になるとサンライズは突然トーラエムさんが子供たちと寝起きを共にすることを認めないと言い出し、続いて社会福祉省も交えた会談ではトーラエムさんを辞めさせる方針を打ち出してきたということです。これ以降、トーラエムさんも子供たちもサンライズに対して強い不信感を抱き、したがって仮にサンライズがその後なんらかのポストをオファーしたとしても、トーラエムさんが、ひとたびサンライズの一職員として雇用されるならば、いつ解雇・追放されるか分からない、と考えたとしても不思議はありません。
(2)
支援ルートの遮断
2004年11月30日午前10時、サンライズはSRPOの子供たち全員をサンライズがすでに管理している通り沿いの施設に招待し、大きくて立派な食堂や寝室を見せ、コンピュータールームやダンス・英語を習う教室を見せ、その上で子供たちに「このような施設で暮らしたいか、それとも今まで通り粗末な施設で(トーラエムさんと一緒に)暮らしたいかと尋ねました。カンボジアの子供たちを少しでも知っている人にとっては当たり前のことですが、子供たちは口をそろえて「お母さんと一緒に暮らしたい」と答えたそうです。
ここにサンライズの物質主義的な価値観とカンボジアの価値観のズレが象徴的な形で露呈しています。物質的な豊かさと心も豊かさ、物と心、そのどちらを重視するかという点でズレが生じているのです。もちろん両者がバランスの取れた形で共存することが理想であることは言うまでもありませんが、西側NGOはともすると性急にカンボジアの貧しさを物の豊かさだけで解決しようとし、その際カンボジアの「心」を無視ないし軽視するという愚行を犯してしまいます。サンライズはSRPOの貧しさから「ここでは子供たちが最低水準にも達しないレベルで非人道的な扱いを受けている」というイメージを紡ぎだし、自らを救済者として演出していますが、母親と子供たちの愛情関係を無視するような態度で果たして「救済者」となれるのでしょうか。
子供たちの取り込みに失敗したサンライズは、12月以降、通りに面したゲートの近くにガードマンを配し、SRPOを訪問しようとするすべての外国人を制止してサンライズのオフィスに誘導し、トーラエムさんに関する否定的証言を列挙し、SRPOへの支援はトーラエムさんの私腹を肥やすのみであると力説します。その後、サンライズの施設を案内し、サンライズへの支援を要請しますが、SRPOを訪問することは認めません。サンライズは政府の委託を受けているので、サンライズの指示に従わない者は政府の意向に反することになると言って、強権を仄めかします。これは私たち自身が2005年1月8日に経験したことです。そしてこのような対応は基本的に今日まで続いています。ただ、サンライズは批判を回避するためか、2005年5月になると「政府の指示」を前面に出して自らは多くを語らなくなり、さらに2005年6月以降はどうしてもSRPOを訪問したがる者に対してはサンライズのオフィスで申請用紙に氏名、住所、メールアドレス、パスポート番号等の個人データを記入し、パスポートのコピーを提出するという条件で、SRPO訪問を認めるようになりました。
サンライズの主張によると、トーラエムさんは多くの寄付を受け取っているにもかかわらず、子供たちのための出費は最小限以下に抑え、寄付金のほとんどを私的な蓄財に流用しており、その証拠に銀行に隠し口座を持っているし、土地を購入しているということです。支援者から現物支給(たとえば洗濯機、米、ミロ)を受けたときも、トーラエムさんはしばしばそれを市場に持っていって売りさばき、現金化して蓄財に回しているというのです。さらに施設内では虐待と洗脳教育が行われているといいます。3年間、トーラエムさんをよく知っている私たちにとってはあまりに突拍子も無い話ではありましたが、事の真偽を確かめるべく、私たちはサンライズが証人として上げたアンコール小児病院の日本人看護婦A氏およびドイツの旅行会社STUDIOSUS社とコンタクトを取りました。前者とは直接会って2度話をし、後者については数人の添乗員と直接会って話を聞くとともに、担当の責任者ともメールで問い合わせを行いました。細かな点はここでは割愛せざるをえませんが、調査の結果、トーラエムさんの不誠実な人格・行為を裏付ける証拠はただの一つも見出されませんでした。逆に証言者の証言根拠の曖昧さ、もしくは明らかな錯覚、事実誤認はいくつも確認できました。(たとえばA氏の証言ではトーラエムさんが寄贈された洗濯機を2つとも売り払い、電気代だけは政府から詐取していたという話でしたが、売り払われたはずの洗濯機は2つとも、使い古されて壊れていましたが、間違いなく施設内に存在していました。銀行の隠し口座なるものもA氏の性急な思い込みでした。)
調査を続けるうちに、幾人かの証人、たとえばSRPOの形式上の院長ムン・ソクン氏およびSRP0からサンライズ側に移ったThyという少年がそれぞれ個人的な理由から虚偽の証言をしたという可能性が浮上してきました。そもそもトーラエムさんを問題視するのであれば、それと同様に彼らに対しても取調べを行う必要があります。
いずれにせよ、少なくとも何一つ明白な証拠もないところでトーラエムさんを誹謗中傷し、それを理由に子供たちへの支援を強権的に阻止するということは正当化されるものではありません。仮に百歩譲ってトーラエムさんのやり方の一部に非があり、サンライズ側の証言の一部が真実であったとしても、このように子供たちに犠牲を強いるような形で孤児院全体を経済封鎖し、兵糧攻めにするという戦術に道理があるでしょうか?北朝鮮のように人道支援の物資がすべて独裁者とその軍隊に回される場合には、そのような措置も許されるかもしれませんが、トーラエムさんが金正日のような独裁者だとでも言うのでしょうか。事実はまさしくその正反対です。深く腐敗に蝕まれているこの国の中で、トーラエムさんの周辺だけは爽やかな風が吹いているのです。実際に一歩SRPOの敷地に足を踏み入れ、一生懸命働き、遊び、勉強している子供たちの幸せな笑顔を見れば、それこそトーラエムさんが愛情に満ち溢れた正真正銘の「母親」であることの何よりの証明です。トーラエムさんをよく知る者にとっては、彼女が17年間、1年365日、毎日24時間ただひたすら愛する子供たちのために生きてきたことは明白な事実です。
サンライズとしては、折角政府からSRPOを含む孤児院全体の管理・運営を委託されたにもかかわらず、奥のSRPOは一人の「母親」と60人の「子供たち」が家族的な結束を見せており、現状のままでSRPOをサンライズという組織の一元的管理体制に組み込むことは難しいと判断したのでしょう。一番手っ取り早い方法は「母親」を取り除いてしまうことですが、しかし正面きって「母親」を攻撃することはできません。ところがもしこの「母親」が実は「母親」ではなく、子供たちを洗脳し、虐待し、利用している「独裁者」であるとすれば、トーラエムさんを追い出す大義名分ができるわけです。実際、トーラエムさんに対する評価をめぐってサンライズと話をすると、サンライズは事実の真偽を客観的・徹底的に検証する以前に結論を出してしまっており、なんがなんでもトーラエムさんを断罪したがっているような印象を受けます。
かつてSRPOを支援していたCSIの米人スタッフは、トーラエムさんを誰よりも身近で見続けてきた者として、彼女の誠実な人柄を保証し、彼女の子供たちが他のどの孤児院の子供たちよりたっぷりと愛情を注がれて真っ直ぐに素直に育っていると明言し、「虐待」や「洗脳」など全く馬鹿げた話だと言っています。もし彼女が金を欲しがる人間であるとしたら、彼女はとうの昔に子供を置いてどこかへ立ち去っているだろうし、また逆にもし彼女の17年間の働きに見合った報酬を支払うとすれば、どんなに大金を支払っても足りないだろうと彼は言います。
私たちの友人であるカンボジア青年は、カンボジア人は自分が有り余るほどの金持ちになるまでは他人を助けようとしないし、カンボジア女性は出家女性を除いてみな金持ちの男性を愛するけれど、トーラエムさんのように自分を後回しにする女性は今まで見たことがない、と語っています。
17年間働いて貯めたお金でトーラエムさんはたしかに土地を買っています。政府が障害者に無償で与えた土地を彼らがシェムリアップを立ち去る際に少しずつ買い取ったものです。しかしこれは私的蓄財として非難されるべきものではありません。むしろこれはトーラエムさんがまさしく母親の心を持っていることの証なのです。カンボジアでは親が子供に土地を残してやることを親の義務と考える伝統があり、トーラエムさんも自分のためにではなく、子供たちの将来のために土地を買っただけのことなのです。
(3)
米、水、薪の支給停止
2004年末までは政府からSRPOに対して米、水、薪の現物支給が行われていたのですが、昨年末に政府がSRPOの運営をサンライズに委託してからは、この支給は完全に停止されました。サンライズが政府からSRPOの運営を委託されたというのであれば、当然サンライズが政府に代わって支援を行ってしかるべきです。ところが、現実には従来政府が行っていた最低水準の支援すらカットしたのです。サンライズは政府からの委託を権限・権力の委譲としてのみ理解し、子供たちへの責任を引き受けるという意識はまったく持ち合わせていないようです。
(4)
送電停止
2005年3月初めからサンライズは奥のSRPO施設への送電を断ち切りました。送電線はサンライズ施設を経由する線1本しかなく、サンライズが配電盤を操作することによって送電を停止することは技術的には造作のないことでした。電気を止められたことによって、SRPOの60人の子供たちは1年でも最も暑いこの時期に扇風機も、冷蔵庫も、テレビも電灯も使用できなくなってしまったのです。子供たちの日記によると、電気を止められたこの期間、小さな子供たちは夜寝苦しさのあまり泣き続けていたと言います。あまりの暴挙に驚いて私たちはサンライズを訪れ、事実関係と理由を問いただしました。女性スタッフBonna氏から返ってきた答えはこうです。「ええ、われわれは送電を止めました。われわれの情報によると、トーラエムさんは洗濯機でランドリービジネスをしているからです。われわれは彼女のビジネスを認めるわけにはいきません。外部の人間に干渉される話ではありません。」また2005年6月22日の話し合いに際して私たちがサンライズのシェムリアップ支局長Mr. Roseに問いただしたときも、全く同じ回答でした。しかも彼はいまだに送電停止措置が過ちだったとは認めませんでした。ボスのMr. Trevorの指示に基づく措置であったはずですから、過ちと認めることはできないのでしょう。
いったい彼らはどういう神経をしているのだろうかと不思議な気がします。仮に百歩譲ってトーラエムさんがランドリービジネスをしていたとしても、それがどうして非難されなければならないのでしょうか。サンライズから兵糧攻めにあっているのですから、子供たちを養うためのサイドビジネスとして名案ではないでしょうか。ただし、実際には洗濯機は2台とも壊れているので、電気があろうとなかろうと、ランドリービジネスなどありえない話なのです。事の真相はこうです。トーラエムさんの友達がSRPOの近くに住んでいるのですが、あるとき彼女の家の井戸が故障したため、数日間彼女が自分の家の洗濯物を持ってきて、SRPOの井戸で洗濯をしていったのです。彼女が洗濯物をもって行き来するのを誰かが見て、ランドリービジネスの話を作り上げたのです。送電停止という基本的人権にかかわる行為に及ぶ以上、当然まず事の真偽を徹底的に検証するのが筋ですが、サンライズは全くそのような検証を行っていません。現場検証も行わず、当事者に問いただすこともなく、そういう手続きをいっさい飛び越えて、一つの「証言」と推定だけに基づいて、いきなり送電停止を実行したわけです。正当な理由があって(正当な理由などありえないのですが)送電停止措置を講じたというより、むしろサンライズは最初から送電を停止したかったのであり(現に2005年3月以前にも2004年の末から散発的に送電停止が行われていました)、3月初めになってようやくランドリービジネスという格好の口実が見つかったので、本格的に送電停止に踏み切ったというのが真相でしょう。すでに兵糧攻めという常軌を逸した措置を講じているという文脈の中で考えると、送電停止はサンライズの首尾一貫した行動なのです。いずれにせよしかし、問題の本質は、兵糧攻めにせよ、送電停止にせよ、あるいは2005年に入ってからの水・米・薪の配給停止にせよ、サンライズは子供たちが犠牲になることを全く意に介していないという事実です。サンライズがホームページで謳っているように子供たちを劣悪な環境から救い出すということが本当の目的なのだとすれば、まかり間違っても、半年以上にわたって子供たちを兵糧攻めにしたり、2ヶ月にわたって送電を停止したりすることなど、できるはずがありません。できるはずのないことを彼らがやっているということは、彼らの関心事がどこか別のところにあるからでしょう。
数箇所からの批判を受け、サンライズは3月12日に送電停止を一部緩和し、夜間の一部の時間帯に限って送電を再開したものの、日中は4月一杯、送電を停止したままでした。2005年4月26日、サンライズは夕方6時から朝の6時まで送電を再開し、かつ毎日食料を支給してもいいとSRPOにオファーしてきました。突然の和議申し入れです。しかし子供たちはこの申し出を突っぱねました。無理もありません。子供たちにしてみれば、これまで散々傍若無人に自分たちを苦しめてきたサンライズが今更何を言うかという気持ちだったのです。ちょうど時期を同じくして、トーラエムさんは電力会社と交渉し、ようやく表通りから直接新しいケーブルを引いてもらうことにしたのです。この時点で電気の問題は解決しました。
しかし、それによって基本的人権を無視したサンライズの犯罪的行為が消えるわけではありません。2ヶ月にわたる、場合によってはもっと長く続いたかもしれない送電停止という措置はいかなる理由によっても正当化されない恣意的暴挙です。サンライズが政府からSRPOを管理する権限を委託されているとして自らの権限を主張するのであれば、それと同時にサンライズはSRPOの子供たちに対する責任を負ってしかるべきです。ところが責任を負うどころか、現実には子供たちの基本的人権を平気で踏みにじって憚るところがありません。この種の無神経さは独裁的権力者もしくはその権力の威を借りる者に特徴的なものです。カンボジアでフンセン首相とのパイプを持ち、社会福祉省の合意を取り付けていれば、基本的に何も怖いものはないと彼らは錯覚したのでしょう。だからこそ、目的達成のためにはどんな手段をとってもよいという錯覚が生まれたのです。
因みに、カンボジア・デイリーという新聞社が2005年7月13日に会長のMs. Coxに対して問い合わせを行ったところ、彼女はなんと送電停止の事実そのものを否定しました。彼女に対しては2005年3月の時点ですでに私たちがEメールで3回にわたり送電停止の事実を指摘しており、一方でサンライズの現場責任者であるMr.
RoseとMs. Bonnaがともに公然とその事実を認めているわけですから、会長たるMs. Coxが今さら「そんなことは知らなかった」では済まされないでしょうし、まして「そんな事実はない」ととぼけることもできないはずです。にもかかわらず敢えて嘘をついたのは、さすがにこれが人権問題になることをMs. Coxは認識したからだと思われます。
(5) チャンターの失職
SRPOの最年長(18歳)の女の子、チャンターは2004年4月に空港喫茶店に就職が決まり、毎日張り切って仕事に通っていました。夜遅い出発便があるときは、帰宅は夜の10時を回ることもしばしばありました。2004年12月にサンライズが表通りに面した入り口に施錠可能なゲートを作り、SRPOの子供たちの事情を全く斟酌せぬまま、勝手に夜の9時半頃にゲートに鍵をかけるようになりました。その結果、チャンターはバイクでの通勤ができなくなったのです。夜間バイクを表通りに放置しておけば、間違いなく盗難に遭うからです。チャンターは仕方なくバイク通勤を諦め、しばらくはバイクタクシーで通勤しました。夜はゲートをよじ登って家に戻ったのです。しかしバイクタクシーでの往復では毎日2$の出費となります。それでは1ヶ月の給料が完全に吹っ飛んでしまいます。結局、月の変わり目に彼女は仕事を辞めざるをえませんでした。
(6)
Trevor氏の暴力行為
2005年2月22日、サンライズの事務局長、Trevor氏が施設の解体・新築に向けた調査のためにSRPOを訪れました。このとき一人の男の子(16歳)が2階の一室に鍵をかけて閉じこもっていたのですが、その部屋を見ようとしたTrevor氏は同行の2人のカンボジア人スタッフに命じて鍵のかかったドアを手荒く蹴らせ、鍵を開けるように強要したのです。これは複数の子供たちの証言、日記によって裏づけられる事実です。
仮にも孤児院を運営する者が、しかもそのトップが、借金取りのヤクザではあるまいし、子供たちの面前でこのような暴力行為を行ってよいものでしょうか?Trevor氏の行動は子供たちの記憶に深く刻み付けられています。この事実一つとってみただけでも、サンライズに果たして傷つきやすい孤児たちの養育を行う資格があるのか、甚だ疑問です。
2005年6月22日に私たちがTrevor氏に直接会って、このときのことを問いただしたところ、Trevor氏はドアを蹴るよう命じたという事実そのものを認めませんでした。子供たちが虚偽の証言をしているか、Trevor氏が嘘をついているか、二つに一つです。子供たちには嘘をつく理由はありませんが、Trevor氏には嘘をついてでも自分の行為を否認せざるをえない理由があります。ちなみに、後に述べるように、彼の嘘はこれ一つではありません。
(7)
サンライズの意図
2005年12月22日11時30分、サンライズはカメラマンを伴ってSRPOに押しかけ、トーラエムさんの同意を得ぬままに写真を撮りまくりました。サンライズのホームページにはこのとき撮ったであろうと思われる写真が掲載されています。天井から吊るされたハンモックで寝ている丸裸の赤ん坊の写真です。それも敢えて白黒写真にして悲惨なイメージを演出しています。ここでは子供たちが人間としての最低限の水準以下の暮らしを強いられており、子供たちをこの悲惨な現実から救う必要があると訴えています。
私たちは世界中で多くの孤児院を見てきましたが、SRPOのように子供たちが明るく素直に育っている孤児院は滅多に見かけません。ところが、サンライズはSRPOの陽の部分にはいっさい目を向けず、子供たちの輝く笑顔はいっさい捨象し、ハンモックの赤ん坊だけを悲惨さの象徴として強調しているのです。カンボジアの事情を全く知らない人がこの写真と記事を見れば、「なんと惨い!」と思ってくれるかもしれません。赤ん坊が丸裸で育てられ、したがって当然排泄物は床に垂れ流しになる − それだけでも「文明国」の人たちには十分なショックでしょう。でも暑いこの国では貧富の差にかかわらず、それは当たり前の光景なのです。布団に寝るより、丸裸でハンモックで揺すられる方が涼しくていいのです。スペースと備品が十分でないためにハンモックを天井から吊るすという点についてはたしかに議論の余地がありますが、何十人もの子供たちがここでそうやってなんの問題もなく健やかに育っていることも事実であります。SRPOの子供たちが「最低限の水準以下で非人道的生活を強いられている」というサンライズの主張は、カンボジアに住み、少しでもカンボジアの田舎の暮らしを垣間見たことのある人にとっては、認識不足による思い込みか、もしくは募金目当ての空々しい宣伝文句にすぎません。サンライズがもし本気でそう信じているなら、SRPOよりはるかに劣悪な生活を余儀なくされている田舎の子供たちにまず手を差し伸べるべきでしょう。ツーリストが集まって人目につきやすいシェムリアップにではなく、本当に日のあたらない田舎に目を向けるべきでしょう。またサンライズが本当にSRPOの子供たちを劣悪な生活環境から救いたいと思っているのであれば、子供たちに劣悪な生活環境を強いる兵糧攻め作戦をただちに止めるべきです。
(8) 子供たちの引き抜き
2005年4月以降、SRPOの60人の子供たちのうち8人が相次いでサンライズに移りました。まず16歳の知恵遅れの女の子が下校途中にサンライズの年長の男の子に腕をつかまれ、力ずくでサンライズの施設に連れ込まれたまま戻って来なく(もしくは戻って来られなく)なりました。その後、相次いで7人の小さな子供が親戚の手でSRPOから引き抜かれ、サンライズの施設に移されました。ごく短い期間の間にこのようなことが続いて起きた背景には、サンライズから親戚への働きかけがあったと想像できます。そしてこの推定を裏づける証言がサンライズ側からの内部告発としてSRPOの子供たちのもとへ伝えられました。証言者の名前は伏せますが、証言者はサンライズのシェムリアップ局長Darren. Rose氏が親戚にお金を渡している現場を目撃しているのです。小さな子供2人をSRPOから引き抜いてくる報酬として100 $、比較的大きな子供1人に対して200 $の報酬が支払われたというのです。いったいサンライズというこの組織は何を考えているのでしょうか?!明らかな人身売買ではありませんか。もっともサンライズは当然この事実も否認することでしょうが…。
金を使ってでもSRPOの子供を引き抜くという常識では考えられないサンライズの行動に注目するとき、サンライズが支援妨害、米や水の配給停止、送電停止等の措置を講じた意図も見えてきます。子供たちを飢えの一歩手前まで追い詰めることによって、子供たちがサンライズの「豊かな」施設に移ってくることを期待しているのです。事実、最近、サンライズは一方で兵糧攻めを続けながら、SRPOの子供たちにケーキを与えて関心を引こうとしています。まさにアメとムチの両面作戦です。
(9) サンライズとの話し合い
2005年6月22日、2004年までSRPOを支援していたCSI(アメリカのキリスト教系NGO)のDavid Jarboe、SRPOを個人的に支援してきたマレーシア在住のアメリカ人、Bob Lee、同じく個人的にSRPOを支援してきた日本の伊藤聡の3人がシェムリアップに集まり、サンライズとの間で話し合いを持ちました。話は予想通り平行線に終始しました。私たちはもしサンライズが本当に子供たちのことを第一に考えているのであれば、話し合いを通じて必ず分かり合えるはずだという基本姿勢で臨みましたが、Trevor氏は話し合いが始まって数分後には「そんな話はしたくない。私は忙しい。」と言って、席を立ちかけるほどで、真摯に話し合いに応じる気持ちは感じられませんでした。
今回の話し合いの中でTrevor氏はトーラエムさんが9月に定年退職でSRPOを離れるとき、彼女について行きたい子供は付いて行けばよいと明言しました。これは意外な発言でした。何故なら、1ヶ月前、同氏はBob Leeとの電話でのやり取りの中で、もしも子供たちがトーラエムさんと一緒にSRPOを出て行くなら、トーラエムさんを誘拐罪で訴えて直ちに刑務所に送ってやると語っていたからです。そのことを指摘すると、Trevor氏は「いや、そんなことは言っていない」と平気で嘘をつきました。ですから、逆に今回の彼の発言も、どこまで信用していいのか、怪しいのです。思うに、サンライズのトップは公にされると都合の悪い事実を指摘されると、ことごとく嘘をついて、事実を否認するようです。
(10) 「母親」の追放
最大の問題はサンライズがSRPOを併合するため、どうしても邪魔なトーラエムさんの排斥を計画しているということです。サンライズは社会福祉省と共同で2005年3月30日にトーラエムさんを追い出そうとしましたが、それが失敗に終わった後、今度は今年10月1日にトーラエムさんを定年退職させるというシナリオが描かれました。
カンボジアの公務員法にはたしかに55歳定年退職という規定があります。ただしこの規定が実際に適用されるのはきわめて稀で、適用は所轄の官僚の恣意に委ねられているのが実情です。恣意的ではあっても、ひとたびこの規定が適用されるならば、法規定そのものは抗う余地は無く、トーラエムさんは2005年10月1日付けで退職せざるをえません。サンライズとしては、これで幕を引こうと考えています。
手続き上、法律上はそれで済むかもしれません。しかし、それはあまりにも子供たちの「心」と「現実」を無視した幕引きです。問題は子供たちが何を望んでいるかということです。子供たちは10年以上自分たちを献身的に世話してくれたトーラエムさんを心底「母親」として慕い、自分たちの「母親を奪わないでくれ」と叫んでいます。一方、サンライズに対しては、子供たちは不信感を通り越して、憎悪感すら抱いているのです。電気を止め、水と米の配給を止め、支援者の訪問を阻止して自分たちに空腹と栄養不足を強い、学業と仕事を妨害し、そして挙句の果てには自分たちの「母親」を追放しようと画策しているサンライズの施設には死んでも移りたくないと言っています。この事実だけをとってみても、サンライズに子供たちの世話をする資格があるとは思えません。
(11) バンコクエアウェイズの支援停止
2005年7月まで唯一の例外としてSRPOへの支援(毎日の昼食)を続けてきたのがバンコクエアウェイズです。ところが8月16日、支援停止の連絡が担当者からもたらされました。担当者の話によれば、バンコクにある本社からの送金が1ヶ月前に途絶えたためだということです。
9月13日、私たちはバンコクでバンコクエアウェイズ本社のマネージャー、ソムルタイ氏に会って話を聞きました。彼女の話によれば、今年の5月、サンライズの代表者3人が彼女を訪れ、SRPOはサンライズが管理を引き受けたこと、またSRPOのトーラエムなる女性は子供たちへの虐待を行っていることなどを伝えたということです。ソムルタイ氏は、一つにはサンライズのような資金力豊かなNGOが支援についたのであればもうバンコクエアウェイズの役割は終わったと考え、またNGO関係のいざこざには巻きもまれたくないという判断もあって、過去5年間にわたって続けてきたSRPOへの支援を停止すると決断したそうです。
いずれにせよ、これによってサンライズは兵糧攻めの態勢を完璧なものとし、子供たちに飢えを強いる作戦の効果を上げることに成功したわけです。子供たちが後何日生き延びることができるか、あるいは降伏まで後何日持ちこたえることができるかは、いよいよ時間の問題となってきました。
以上、これまでの経過を問題点ごとに説明してきました。子供たちの基本的人権にかかわる問題として特に重大なのは、(2), (3), (4)、すなわち自らの組織上の目的を達成するためには手段を選ばず、善意のサポートラインを断ち切ったり、送電や水の配給を断ち切ったりして子供たちに犠牲を強いて憚ることがないというサンライズの構造的体質です。
子供たちに著しい犠牲を強いてでもサンライズが達成したがっている目的とはいったい何なのでしょうか。このNGOの目的が子供たちの幸せであるとすれば、彼らが現実に行っていることはその本来の目的から180度乖離しており、全く理解不可能です。しかし一方、このNGOの目的が子供たちを使った「募金ビジネス」であるとすれば、彼らの行動のすべてが首尾一貫性を帯びたものとして理解可能になります。ビジネスが主目的であるならば、母親と子供たちの間の「愛情関係」を尊重する必要はなく、むしろそのようなものは「孤児院という組織」を一元的に管理し、合理的に運営していく上で却って邪魔なのかもしれません。必要なのは忠実で優秀なスタッフであって、母親ではありません。子供たちから「母親」を奪い去ることに一々痛みを感じていたのではビジネスはやっていけません。またビジネスである以上、ときには乱暴な手段(6)(8)を講じることもあるし、演出効果や宣伝広告(7)に気をつかう必要もあるわけです。またカンボジアのような国でビジネスをやる上では権力とのパイプはきわめて重要です。この国では権力に反抗する者は皆無に近いので、権力を味方につければ、ビジネスは非常にやりやすくなります。
いずれにせよ、サンライズがここ半年以上にわたってSRPOの子供たちに対して行ってきた一連の行為は子供たちの基本的人権に対する重大な侵害であり、いかなる理由によっても正当化されえない行為であります。孤児院を運営するNGOとしての資質が問われます。サンライズの行為はトーラエムさんを母親として慕う子供たちの愛情、トーラエムさんの子供たちに対する17年間の献身的愛情、そして孤児たちに寄せる多くの善意の人々の愛情、これらすべてを蔑ろにするものであり、NGOとしての正義に悖るものであります。母親を奪わないで!という子供たちの叫びはどんな虚偽証言よりも重みを持っています。一度親を失って孤児となったこの子供たちがまたしても母親を奪われるとしたら、彼らのトラウマは癒しがたいものになります。そしてその危機は間近に迫っています(2005年10月1日)。
潤沢な資金を使ってどんなに豊かな施設を用意しても、また政府の権威を纏ってどれほどの権限を手に入れても、純真な子供たちの心に敬意と愛情をもって接することができない者に、また目的を達成するためには正義を無視して卑劣な手段を講じる者に、子供たちの世話をする資格があるとは思えません。また彼らの行為はカンボジアの子供たちのために資金を提供してくれた支援者に対する背信行為でもあります。
金と権力を盾に不正義がまかり通っても不思議はない国であればこそ、またメディアが非力なこの国であればこそ、全世界の心ある人々は子供たちの悲痛な叫びに耳を傾け、一人一人の小さな声を束にして暴挙に歯止めをかける必要があります。子供たちの人権を侵害するサンライズの行為が世界中から監視されているのだということを彼らに知らせること、それが子供たちを救い出す大きな力になります。
サンライズのメールアドレスは下記の通りです。
President, Ms.
Geraldine Cox:
geraldinecox@bigpond.com, geraldine.cox@sunrisechildrensvillage.org
Chairman, Mr.
Gerald Trevor: gerald@geradtrevor.com
, gft@sunrisechildrensvillage.org
Local Manager, Darren Rose: darren.rose@sunrisechildrensvillage.org
サンライズのホームページは下記の通りです
www.sunrisechildrensvillage.org
2005年9月15日
SRPO子供たちの代理人
伊藤 聡 (在シェムリアップ)
他、子供たちの友人一同